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顧客戦略の仕組み化、3条件と7ステップ

顧客戦略の仕組み化、3条件と7ステップ

顧客戦略をスムーズに進めるためには、どうしても仕組みが必要です。仕組みには、3つの条件と7つのステップがあります。
これからお話することは、必ずしも顧客戦略は、この形でなければいけない訳ではありませんが、自社で顧客戦略を仕組みを構築する際の参考になればと思います。

「顧客戦略」の仕組みづくり、3の条件

 顧客戦略の仕組み構築をどのように進めていくのかの前に、お伝えしたいことがあります。それは、そもそも仕組みとはどのように構築していく必要があるのかということです。
 仕組みづくりには、なくてはならない条件があります。「第1条件.仕組みに関わる全ての要素が含まれている=網羅性」「第2条件.全ての要素の関係が明らかになっている=関係性」「第3条件.循環する仕組みになっている=循環性」、以上3つの条件です。さらに「3つの条件を満たした全体像を分かりやすい1枚の図で表現し、会社内で共有する」ことが仕組みづくりに不可欠です。
 「顧客戦略の仕組み」をつくるにあたって、先に挙げた仕組みづくりに必要な3つの条件は、具体的にどのようになるのでしょうか。左記では「顧客戦略の仕組みづくり」の具体的な3つの条件についてお話します。

第1条件 顧客戦略に関わる全てを網羅した仕組み=網羅性

「顧客戦略」の現場活動(丁寧な接客、魅力的な提案等)はもちろん、顧客戦略を育成するために必要な、未来像、数値目標、教育、現場PDCA、成功事例の共有化等を全て含めて、仕組み化します。
 なぜ仕組みの中身が網羅的でなければならないかいうと、ある分野がうまく機能していても、他の分野が抜けて落ちていると、そこから綻びが生まれます。その綻びの影響で、全体の仕組みがうまく廻らなくなるからです。
例えば、顧客戦略の現場浸透を「接客」や「既存顧客向けの提案」の活動だけで進めると、短期的な成果が出ても、その結果どんな未来にたどり着けるのか明らかになっていないので、活動が長続きしません。結果として顧客の数が安定して増え続けません。また、顧客戦略の現場浸透を「現場リーダー(マネージャークラスへの教育)」のみで進めているとします。その場合「教育に参加していない現場スタッフ」が見てわかりやすいテキストがなかったとすると、いくら熱心に現場リーダーが顧客戦略に取り組んでも、顧客戦略の現場浸透が仕組みとしては、中々うまく廻っていきません。顧客戦略の数が安定して増え続けません。
 
 では、顧客戦略の仕組み構築には、どんな分野が必要なのでしょうか。「顧客戦略の仕組み=半年・1年・3年・5年・10年にわたって顧客にずっと買い続けてもらい、顧客の数を安定的に増やす仕組み・基盤」に関わること全てが対象分野になります。顧客戦略の仕組みは、大きな器で創造していくものです。左記、9つの分野が対象になります。

(経営層が進める分野)
Ⅰ.10年前から10年後までの現場変化の把握・予測
Ⅱ.顧客戦略の現場の未来像構築
Ⅲ.顧客戦略の現場スタッフの安定的な成長

(本部スタッフが進める分野)
Ⅳ.顧客戦略の現場活動の教育・研修(E-ラーニング)の実施
Ⅴ.顧客戦略の現場活動の見える化(テキスト化)
Ⅵ.顧客戦略の現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善

(現場が進める分野)
Ⅶ.顧客戦略の現場計画の作成
Ⅷ.顧客戦略の活動実践
Ⅸ.顧客戦略の振り返り・改善

 9つの分野を図で示したのが次の図です。

 「仕組みの網羅性」について理解を深めていただくために、すこしお話が大きくなりますが、1つの国家を考えてみましょう。国家には、国民の生活を守る、国民を豊かにする、国家を繁栄させるという目的があります。その目的を達成するために、税金を集めて分配する、外国と貿易をする、医療を提供する、治安を守る、資金を循環させる、外国に行った自国民を守る、法を制定してそれを守らせる、災害(地震・火事等)から国民を守る、未成年の教育を行う等、国の仕組みは実に網羅的です。
 それを財務省、経済産業省、厚生労働省、総務省、警察庁、金融庁、外務省、防衛省、文部科学省、法務省、消防庁等、さまざまな省庁でその役割を担っています。これらのどれかが、もし存在しなかったとしたら、その部分から国民生活が脅かされることになります。どの分野も国民の生活を守る、国民を豊かにする、国家を繁栄させるために、外せない分野です。目的実現のためにある仕組みに網羅性は極めて重要になります。

第2条件 顧客戦略の全体と部分の関係を明確にした仕組み=関係性

 「顧客戦略」の第2条件は、「全体と部分の関係を明確にする」ことです。なぜ、関係性が重要かというと、全体と部分が明確になっていることで、1つ1つの部分が噛み合い、顧客戦略が大きく進むからです。
 具体的には、「顧客戦略をベースに、①現場を把握し、②現場の未来像・目標数値を掲げ、そんな未来像・目標数値を実現するために③日々の活動を見える化・テキスト化し、そのテキストを使って、④現場教育を行い、⑤丁寧に計画(P)し、⑥実践(D)し、⑦振り返り改善(CA)する。⑧現場の事例を収集・整理整頓して自社ならではの活動ノウハウとして蓄積し、⑨スタッフの成長を促す。その結果、現場の未来像・目標数値を実現する」ことです。

 なぜ、関係を明確にすることが重要かというと、全体と部分が明確になっていないと、1つ1つの部分の精度を高めることに一生懸命になり、全体の改善を省みないという現象が起こるからです。本書のテーマとずれますが、その現象は数多くの場面で、見受けられます。日本の省庁は、日本全体の国益よりも自分の省庁の利益を優先して考えます。企業が大きくなればなるほどにどうしても各部署は、企業全体の利益よりも、自分の部署の利益を優先して考えます。全体をとらえた上で各部分の改善を試みることが重要です。それが各部分の力を最大限に集約した全体の仕組みになります。
 顧客戦略の仕組みを構築するにあたって「全体と部分の関係を明確にした仕組み=関係性」が大事です。「顧客戦略」の視点で、全体と部分を考えると、部分とは「顧客戦略に直接的・間接的に影響を与えるすべての部分」、全体とは「一つ一つの部分を明確に位置づけた体系」です。顧客戦略の仕組みはガラス細工のように繊細なものです。
 全体と部分の理解を深めるために、一つの野球チームを考えてみましょう。チームの最終目標は勝利を掴むことですが、それを実現するためには、「チームの目指すべきチームスタイル(ex.長打力中心の攻めの野球、継投策中心の守りの野球、足を使ったスピード野球)」という“全体”と、「各プレイヤーの役割(ex.高出塁率の1番バッター、チャンスに強い4番バッター、6回まで抑える先発ピッチャー、堅実な守備のショート)」という“部分”を、監督・選手みんなが共有する必要があります。共有することで、チームをまとめあげることができます。

第3条件 顧客(顧客戦略)が増え続けるノウハウが循環する仕組み=循環性

 「顧客戦略」の第3条件は、「顧客(顧客戦略)が増え続けるノウハウが循環し続ける構造をつくる」ことです。時代の変化への飽くなき対応・ノウハウが循環する構造・成長が成長を呼ぶサイクルを仕組みの中に内包することで、一時的なものではなくて、中長期に渡って顧客戦略を育成し続けることができます。顧客戦略の仕組みづくりには、5つの循環サイクルがあります。

◇循環サイクル1「現場の未来像の更新サイクル」
 顧客戦略を進める上で、現場の未来像は最もそのベースになるものですが、毎年リニューアルを繰り返していきます。経営理念は毎年変えることではありませんが、顧客戦略の現場未来像は、もっと動きがあるものです。「現場の未来像の更新サイクル」を内包します。

◇循環サイクル2「教育を起点にした現場PDCAサイクル」
 顧客戦略を育てる活動を現場のミーティング・朝礼・終礼・スタッフ個別ミーティング等を活用して、教育を起点にして計画して、実践して、振り返り、改善していくことを丁寧に行います。顧客戦略の仕組みにはこのような現場レベルの教育―計画―実践―振り返りー改善という「教育を起点にした現場PDCAサイクル」を内包します。

◇循環サイクル3「事例中心の学習サイクル」
 顧客戦略の現場活動の成果として成功事例、失敗事例が出てきます。その事例を本部で詳しく見つめて、ノウハウ化していきます。全社で事例・ノウハウを共有することで、学習が進みます。顧客戦略の仕組みには「事例中心の学習サイクル」を内包します。

◇循環サイクル4「現場教育の改善サイクル」
顧客戦略で重要なキーになる現場教育は、常に改善を繰り返します。現場のPDCAを繰り返す中で、教育も進化していくことが大切だからです。教育は一度形が決まると中々変化に乏しいことが多いです。だからこそ「現場教育の改善サイクル」を内包します。

◇循環サイクル5「現場人材の成長サイクル」
 顧客戦略は、顧客接点で生まれます。接点でしか生まれません。顧客戦略を育てるために一番大事な顧客接点の改善には、現場人材の成長が欠かせません。顧客戦略の仕組みに「現場人材の成長サイクル」を内包します。

 顧客戦略の仕組みを構築するにあたって「顧客戦略を増え続けるノウハウが循環する仕組み=循環性」が大事です。顧客戦略の仕組みは美味しい生ものと同じで鮮度が大事です。
 循環構造について、理解を深めていただくために、地球/人間になくてはならない水を考えてみましょう。水はどのように生み出され続けているかというと、まず、海水が地球の熱で少しずつ蒸発します。蒸発をした水は雲になり、雨が降ります。雨が降ると雨水がダムに貯蔵され、洗浄されて、人間がその水を使います。使った水は、洗浄されて川に戻り、再び海に行き着きます。このような循環構造を持つことで、水は枯れることなく、生み出され続けています。

「顧客戦略」の仕組みづくり、7つのステップ

 このような「顧客戦略」の仕組みですが、どのように社内に浸透させればいいのでしょうか? 顧客戦略の仕組みを社内、現場に根付かせるためには、7つのステップが重要になります。
◇ステップ1「10年前から10年後までの現場変化の把握・予測」
◇ステップ2「現場の未来像構築」
◇ステップ3「現場活動の見える化(テキスト化)」
◇ステップ4「現場活動の教育・研修(E-ラーニング)の実施」
◇ステップ5「現場の計画‐実践‐振り返り・改善の推進」
◇ステップ6「現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善」
◇ステップ7「現場スタッフの安定的な成長」
この7つのステップを仕組みとして図解したのが、左の全体像です。次から7つのステップ毎の推進ポイントをコンパクトにお届けします。

ステップ1  5年前から5年後までの現場変化の把握・予測

 ます最初のステップ、ステップ1は、「現場変化の把握・予測」です。ステッ2で現場の未来像を構築するにあたって、過去を把握し、未来を予測することが大事です。時間は過去・現在・未来と連綿と繋がっています。現場の未来像を考えるにあたって、過去と未来は切り離すことができないからです。
どのくらいの過去を見るのでしょうか。未来を見るのでしょうか。
顧客戦略の世界では、「今日はじめて来店したお客様が5年後も来店してくれる」ことを目指します。5年を一つの区切りとして考えます。過去も5年前からの過去を把握し、未来も5年後の未来を予測します。

5年前からの過去の把握

 まずは過去の把握についてです。どんなことを中心に5年前から現在を把握するのでしょうか。大きく分けて2つの視点で考えていきます。「マーケティングの戦略」と「現場の活動(戦術)」です。
 顧客戦略の実現には、会社としてどのような「マーケティングの戦略」を取っていくかが重要になります。5年前から現在まで取ってきた「戦略」の変化を確かめます。「過去5年間のマーケティング戦略の変化」を把握します。
一方で顧客戦略の実現は、詰まる所、「現場の活動」が大事です。顧客は「現場の活動」で、ずっと買い続けるか、ずっと依頼し続けるのかの判断をするからです。10年前から現在までの現場の活動の変化を見ていきます。「過去5年間の現場活動(接客・売場・ツール・営業アプローチ・既存客へのフォロー活動)の変化」「過去5年間の各現場の顧客数・売上推移」を把握します。ただ、丁寧に実施しすぎる必要はありません。やっても見えないものは見えないし、すでに分かっていたことを確かめることになることも多いからです。

5年後の未来の予測

 続いて未来の予測についてです。どんなことを中心に5年後の未来を予測するかというと、過去の把握と同じで、「マーケティングの戦略」と「現場の活動(戦術)」についてです。ただ大きく違う点が一つあります。過去は自社を前提に考えますが、未来は自社とは少し離れて、5年後の業界動向を踏まえて、業界として求められている「マーケティングの戦略」と「現場の活動(戦術)」に想いを馳せてみます。5年後の自社は予測が難しいですが、5年後の業界動向は掴みやすいからです。一度、5年後の未来に想いを馳せることで、ステップ2で考える自社の現場の未来像が考えやすくなるのです。

ステップ2現場の未来像構築

 まずステップ2「現場の未来像構築」です。“現場の”という所がミソで、通常、会社の未来像(=企業はどうありたいのか)は、「経営理念」「企業理念」「社是」「社訓」や、社長が年初に掲げるビジョン等で、明らかにされています。
 百貨店であれば「お客様に最適な買い場を提供し、お客様の生活をより豊かにする」、化粧品小売業であれば「地域の女性の美しさの創造に貢献する」、飲食店であれば「お客様に感動を届ける“食”の場を届ける」、建設会社であれば「将来の日本・地域の環境整備のために高品質な建設サービスで貢献する」といったものです。
 社長の言霊が入った素晴らしい内容が多いのですが、会社全体のことと言っているので、マーケティング戦略である顧客戦略を現場(顧客の接点)で進めるには、話のスケールが大きすぎて(概念的すぎて)、あまり活用できない現実があります。
 現場レベルの未来像(=現場はどうありたいのか)を明確にする必要があります。顧客戦略の世界では、3つの現場の未来像を構築します。「言葉の未来像」「イメージの未来像」「数字の未来像」です。現場の未来像を明確にすることで、社長・本部スタッフ・現場リーダー・スタッフの力を一つの方向に集めることができます。現場で迷いが少なくなります。
 現場の未来像構築の重要性を理解いただくにあたって、構築しないことで起こるよくある現実を知っていただこうと思います。ここでは2つのケースを見ていきます。

現場の未来像を明確にしないで、人の成長が前に出過ぎると…

 現場を変えようと考えた時によくあるケースが、現場の未来像を明確にしないで、人の成長が大事という考えから、教育強化に落ち着いてしまうことです。「Ⅱ.現場の未来像」があいまいなままに、「Ⅳ.現場活動の教育・研修の実施」を通じて「Ⅲ.スタッフの成長」を促そうとするケースです。
 そもそも企業は、人を成長させるためにあるのではなく、今よりも顧客が良くなるモノ・サービスを届けるために存在します。確かに資金的な余裕のある企業・稀な商品力をお持ちの会社であれば、純粋に人の成長から考えていくこともあるでしょう。ただ多くの会社では、会社が掲げる「Ⅱ.現場の未来像」を前提に、スタッフの成長、教育を進めることが大事です。
 一定規模の会社では、さらに「Ⅲ.スタッフの成長」は人事部、「Ⅳ.現場活動の教育・研修の実施」は各事業部門が担うことになっているので、目的が不明確なままに実施されている状況があります。かけている時間の方が効果を上回っていて、コストパフォーマンスが悪い形になっています。

現場の未来像を明確にしないで、PDCAの重要性を強調しすぎると…

 2つの目のケースは現場の未来像を明確にしないで、PDCAを廻すことが何より大事と考えている会社です。第Ⅰ象限から第Ⅵ象限までをあまり考えず、第Ⅶ象限から第Ⅸ象限までを大事にする考え方で、計画に新鮮味がなく、PDCAを一生懸命廻しても顧客の数が増えません。
 原因は、そもそも計画を立てる意味があいまいなことに端を発しています。なぜ計画を立てるのか?それは「今よりも顧客に喜んでもらう、評価してもらうために、新しい活動をするため」です。そのためには、「Ⅱ.現場の未来像」を実現するために、「Ⅴ.現場活動の見える化(テキスト化)」を進め、「Ⅳ.現場活動の教育・研修」を行うことで、新しい活動が十分入った計画を作成することが大事です。
 ただ計画を立てると、昨年と同じような計画になります。昨年と同じような計画だと、どんな結果になる場合が多いかというと、市場動向と同じ傾向になることが多いです。市場が10%伸びていれば、自社も10%伸びます。市場が10%下がっていれば、自社も10%下がます。成長時代であれば、昨年と同じような計画でも問題ありませんでした。今の時代は違います。昨年と同じような計画を立てて活動を一生懸命実践しても、売上が落ちていきます。顧客の数が減ってしまうのです。
 現場の未来像を明らかにしないでPDCAを廻すことに固執すると一生懸命やっても昨年よりも売上が落ちる、これはあまりに寂しすぎますね…。

 2つの目のケースは現場の未来像を明確にしないで、PDCAを廻すことが何より大事と考えている会社です。第Ⅰ象限から第Ⅵ象限までをあまり考えず、第Ⅶ象限から第Ⅸ象限までを大事にする考え方で、計画に新鮮味がなく、PDCAを一生懸命廻しても顧客の数が増えません。
 原因は、そもそも計画を立てる意味があいまいなことに端を発しています。なぜ計画を立てるのか?それは「今よりも顧客に喜んでもらう、評価してもらうために、新しい活動をするため」です。そのためには、「Ⅱ.現場の未来像」を実現するために、「Ⅴ.現場活動の見える化(テキスト化)」を進め、「Ⅳ.現場活動の教育・研修」を行うことで、新しい活動が十分入った計画を作成することが大事です。
 ただ計画を立てると、昨年と同じような計画になります。昨年と同じような計画だと、どんな結果になる場合が多いかというと、市場動向と同じ傾向になることが多いです。市場が10%伸びていれば、自社も10%伸びます。市場が10%下がっていれば、自社も10%下がます。成長時代であれば、昨年と同じような計画でも問題ありませんでした。今の時代は違います。昨年と同じような計画を立てて活動を一生懸命実践しても、売上が落ちていきます。顧客の数が減ってしまうのです。
 現場の未来像を明らかにしないでPDCAを廻すことに固執すると一生懸命やっても昨年よりも売上が落ちる、これはあまりに寂しすぎますね…。

ステップ3現場活動の見える化(テキスト化)

 ステップ3は、「現場活動の見える化(テキスト化)」です。
 ステップ2で構築した現場の未来像を顧客との接点で実現するためには、新しい日々の活動が大事になります。それが誰の目から見ても見えるようになっていないと、新しい現場の未来像が構築できても、どんな活動をすればいいのか、スタッフには分からないので、ほとんど現場が変わらないことになってしまいます。顧客戦略の現場未来像の実現に近づくには、現場活動の見える化(テキスト化)が必要です。

社長が未来像を熱く語っても…

 ある会社のお話です。年初の挨拶で社長が熱く現場の未来を語ります。その現場の未来はイキイキとしていて、お客様が喜んでいる場面・シーンが浮かんでくる、自社の未来に期待が高める素晴らしい内容でした。実際にそれを聞いた現場リーダー(店長・マネージャー等)のココロも強く打ちました。その日は「社長のお話、とても“いい話”だった。今年もがんばろう!」とみんなモチベーションが上がりました。
 実際に明日からがんばったのですが、1週間ぐらい経つと、残念ながら顧客から見て、あまり変わったことはありませんでした。顧客も増えませんでした。現場の活動が継続的に変わらなかったからです。その理由は、社長が語った現場の未来が見える化(テキスト化)されていなかったからです。特に現場のスタッフは朝礼・会議で5分ほどのまた聞きだったので、内容もほとんど伝わっていなかったのです。「Ⅱ.現場の未来像構築」ができても、「Ⅴ.現場活動の見える化(テキスト化)」ができていない状況だったのです。ステップ3「現場活動の見える化(テキスト化)」は日々の活動を通じて、顧客戦略を前に進めるために重要です。

日本ではマニュアル化がネガティブに捉えられますが…

 活動の見える化(=テキスト化)は、マニュアル化と言われたりして、一般的に日本ではネガティブに捉えられることがあります。脱マニュアルという言葉もありますが、顧客戦略を増やす現場の活動、今までとは違った日々の活動を現場のみんなで進めていくには、活動の見える化(=テキスト化=マニュアル化)が不可欠です。活動の見える化(=テキスト化)が必要ではないのは、今のままの活動でOKの場合です。それは私達が目指す場所ではありませんよね。

ステップ4現場活動の教育・研修(E-ライニング)の実施

 ステップ4は、「現場活動の教育・研修の実施」です。ステップ3では「現場活動の見える化(テキスト化)」をしました。その内容を現場に落とし込むためには、現場活動が見える化されたテキストをそのまま、販売現場に配っても、エンドユーザービジネスでは一部の熱心な現場で読まれたり、新入社員の教育テキストとしての活用される場合を除いて、ほぼ何も起きません。普通は現場のスタッフは読んでくれないからです。それは現場の皆さんの意識が低いとか、仕事を大事に思っていないとか、そういうことではありません。現場活動のテキストを読むよりも、やらなければいけない事があるからです。ほかに優先順位が高いことがあるからです。
 顧客戦略が増えていく活動内容が書かれたテキストを現場で実践する意味合い、実践のポイント、テキストに書けなかった背景にあった事実等を教育・研修(E-ラーニング)の場で、ココロを込めて伝える必要があります。ステップ4の「現場活動の教育・研修の実施」はとても重要です。

一生懸命書いても読まれなかったマニュアル

 私が20代の頃に関わった仕事で全国に約5,000店ある企業の活動マニュアルを作ったことがありました。丁度、顧客満足(CS)が叫ばれた時代の話です。約30Pのマニュアルを5冊作成して、動画も作成したのですが、現場の方々がそのマニュアルを読んで、現場で新しい活動を進めた話を聞くことはほとんどありませんでした。
 これからの時代に必要な活動がテキストやマニュアルという形で見えるようになっていても、それを伝える場としての教育・研修の場を設けなければ、結局、実践を現場に丸投げしている状態になることを実感しました。
 その当時を思い出すと、一生懸命自分が書いたマニュアルが、お店のバックヤードでホコリまみれになっている事実、悲しかったですね。その時は、「なんでこんな分かりやすいマニュアルを読んでくれないんだろう…」と思っていたのですが、今は自分の間違いが分かります。そもそも、マニュアルの内容がどうこうというより、教育・研修の場を設ければよかったのです。
 面白いもので、マニュアルを現場であまり読んでいなかった人も、本部で作る側に立つと「良いマニュアルを作れば、読んでくれるはず」と思うものです。自分がどうだった忘れてしまうのです。読み側はそもそもマニュアルを読もうとする気持ちがあまりないことに目をつぶってしまうのです。

ステップ5現場の計画-実践-振り返り・改善の推進

 ステップ5は「Ⅶ.現場計画の作成」、「Ⅷ.活動実践」「Ⅸ.振り返り・改善」を合わせた「現場の計画-実践-振り返り・改善の推進」です。ステップ4の「現場活動の教育・研修」が、現場の実践に結びつかない、単に「勉強になった」で終わらないようにするために重要なステップです。現場の計画-実践-振り返り・改善の重要性を理解いただくにあたって、推進しないことで起こるよくある現実を知っていただこうと思います。ここでは2つのケースを見ていきます。

ベテランスタッフは教育を受けても、現場活動が変わらない。

 ある会社の教育担当からお聞きしました。その会社の教育・研修で、現場の活動までスムーズに落ちるのが、新人を対象にした研修だとのことでした。新人は実務ノウハウを持っていませんし、素直だからでしょう。一方で、経験豊富なスタッフ向けの研修は、現場の活動に中々落ちないそうです。ベテランのスタッフはすでに実務が一定レベルでできていて、プライドがあるからでしょう。私の実感としても、本音の部分で「今さら教育・研修なんて…」と思っている人が多く見受けられます。7~8割に上りますね。
 そんな現状があるので、多く会社では、経験豊富な現場リーダー向けの研修は機能していない場合が多いです。ここでいう機能していないとは、研修の内容が現場の計画に組み込まれて、現場スタッフ全員で取り組むことがない状況です。
教育自体を実施していない会社もあります。その場合、商品・製品・サービスは変わり続けていますが、日々の活動に改善が少ない、進化がない人が7~8割に上ることもあります。

ハードルが高い現場の計画-実践-振り返り

 顧客戦略の教育・研修は、経験豊富なスタッフ向けのウエートが高いです。経験豊富なスタッフに理解いただき、「ステップ5の現場の計画-実践-振り返りの推進」に繋げてもらうのはハードルが高いのも事実です。
「教育・研修の内容をスムーズに現場活動に落とし込める計画シートの作成」、「今行っている施策・キャンペーンとの連動」、「活動を実践し続けたくなるフォロー」、「モチベーションアップに繋がる振り返り」等の工夫を積み重ねて、教育・研修内容の現場化(計画-実践-振り返り)が実現します。

ステップ6現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善

 各現場で進めるステップ5「現場の計画‐実践‐振り返り・改善」が、さらに事例共有を通じて全社的に広がるように、教育が進化していけるように、ステップ6「現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善」の3つを進めることが大事になります。
 詳しく説明すると、現場事例の収集とは「一つひとつの現場の事例を一定のフォーマットで定期的に集めること」、成功場面の再現とは「ある現場で起きた顧客が喜んでくれた場面を他の現場でも再現すること」、教育内容の改善とは「現場で起きていること、再現できたことをベースに教育内容・テキストを追加・修正すること」です。

現場事例を共有しても社内で広がらない場合が多い。

 “現場事例の共有で、一つひとつの現場が進化していく”理想的な現実です。しかし、事例が社内で広がらない現実、教育内容も変わらないのでドンドン時代と合わなくなっていく現実を目にしてきました。
 あるメーカーの営業マンが集まる会議に参加したことがあります。その会議では毎回、優秀な成績をあげた営業マン本人による事例発表があります。事例の内容は興味深い内容だったのですが、「その営業マンのキャラクターだからこそできたこと」が多かったのです。これでは成功事例の共有を進めても、他の現場での成功場面の再現には至りません。また「その地域ならではの内容だった」なんてこともよくあります。成功事例の共有ではなく、成功場面の再現を考えていく必要があります。

15年前から教育が進化していない。

 あるアパレルの小売業です。この会社は教育・研修の刷新を考えていました。それに伴って教育テキストもリニューアルしたいとのことで、相談を受けました。その場でテキストを見せてくれて、私から「このテキスト、いつ頃から使っているのですか」とお聞きした所、「手直しはしているものの、15年前とほとんど変えていません」とのことでした。15年前と言えば、まだまだ成長時代のやり方が通用したタイミングです。商品は毎年進化していくのに…なぜか教育は「基本は変わらない」というキーワードのもとで聖域化して、進化が止まっている場合があります。教育も商品と同じように、毎年の進化が欠かせません。
「現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善」は、その重要性を認識しながら、成功事例の共有のみで留まっていることが多いです。どのように改善の実務を進めていったらいのか明らかになっていないからです。

ステップ7現場スタッフの安定的な成長

 いよいよ最後のステップです。
 これまでを振り返ってみると、ステップ1「10年前から10年後までの現場変化の把握・予測」、ステップ2「現場の未来像構築」、ステップ3「現場活動の見える化(テキスト化)」、ステップ4「現場活動の教育・研修の実施」、ステップ5「現場の計画‐実践‐振り返り・改善の推進」、ステップ6「現場事例の収集・成功場面の再現・教育内容の改善」まで説明してきました。このように進めることで、顧客戦略が進んでいきます。顧客の数が増えていきます。
 ただ、顧客数を安定的に増やし続けるためには、顧客が安定的に育っていくためには、スタッフが年を重ねる毎に安定的に成長していく必要があります。それが、ステップ7「現場スタッフの安定的な成長」です。そのためには、顧客戦略をテーマにしたスタッフと上司の定期的なコミュニケーション機会の創出・顧客戦略を基軸にした評価が必要です。

目指す未来が変わっても、社内コミュニケーション・評価方法が変わっていない

 数年前になりますが、弊社のコンサルティング先からこんな依頼を受けました。「これは今使っている現場スタッフの人事評価シートなんだけど、専門家である齋藤さんから見て、どんな改善点があるのか教えて欲しい」とのことでした。
 そのシートを見て私が感じたのが、「顧客の育成を10年以上前から進めているけど、スタッフの評価については、従来のマスマーケティング的な考え方から抜け出せないままなんだなあ」という感想でした。端的に言うと、仕事への姿勢・取組方と、今期の売上実績が中心だったのです。そして、この評価について、スタッフと上司のコミュニケーションも熱心に行われている訳ではないとのことでした。
 マスマーケティングから顧客育成の世界に目指す未来を変えて、一生懸命取り組んでいる会社でも、評価の部分は、大分遅れて改善に向かうんだなと思いました。大手企業はこの速度でいいかも知れませんが、中小・中堅企業であれば、このスピード感はないかも知れないと思いました。

まとめ

 以上、7つのステップの推進ポイントをお届けしました。7つのステップと全体構造は、もちろん最初からあった訳ではなく、さまざまな会社と顧客育成に取り組む中で、少しずつ確立していったものです。
 必ずしも顧客戦略は、この形でなければいけない訳ではありませんが、仕組みが必要であること、それが見えるようになっている必要はあります。今回紹介した顧客戦略の仕組みが自社で仕組みを構築する際の参考になればと思います。

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