LTV最大化の取組事例
最近「LTV(顧客生涯価値:Life Time Value:ライフタイムバリュー)」に再び、
光が当たりはじめたお話をしましたが、2024年4月号の販促会議は「LTV」の大特集でした。
https://www.advertimes.com/20240327/article453801/
販促会議(5月号)から「チュチュアンナ、ネット通販のLTV伸長率135%」の記事から考察します。
「チュチュアンナ」記事要約
■チュチュアンナは女性向けアンダーウエアや服飾雑貨、靴下を展開。
出典:販促会議2024年5月号:SIS齋藤一部編集
■2017年にアプリを開設。年間ユニークユーザーは100万突破。
ネット通販の50%はアプリ経由で、この3年でLTVの伸び率135%を実現。
■取組の肝は、顧客一人ひとりによって購買行動が違うことから、まず「顧客を知る」ことに。
■「購入チャネル(ECサイトのみ・アプリのみ、両方)」と「購入金額(上位・中位・下位)」で会員を9つに分類。
9つの顧客セグメントごとに人数構成比・売上構成比・年間購入金額を算出。
■9つの顧客セグメントごとに、顧客育成の阻害要因を把握し、短期的なPDCAで改善していった。
■「上位客×アプリのみ」「下位×ECサイトのみ」はセグメントが違うので、違う施策を考えて実践。
■初回購入から2回目購入に繋げるために、タイミングとメディアとアイテムの組み合わせを編み出せた。
■新規獲得重視で売ることに比重を置いてきたが、今後はそれだけではいけない。
リアル販売のLTV と ネット通販のLTV
今回のチュチュアンナに限らず、「ネット通販」では、「LTV最大化の取組」は
現場レベルで浸透しています。
一方で「リアル販売」では、LTVは注目されていますが、具体的に進んでいる
LTV最大化の取り組みは、競合他社でも行われているポイント還元・クーポン
提供などの会員サービスが中心です。ネット通販に比べて、リアル販売は
LTVの実務への落とし込みが弱いの現状です。
リアル販売のLTV最大化が広がらない理由
データ分析はとても大事です。
データを分析することで、LTV最大化を前に進めることができます。
そもそもデータを分析したからこそ、LTV最大化を進めようと思ったのでしょう。
そんな大切なデータ分析ですが、リアル販売でLTV最大化を進める人にとって
大きな壁になります。ネット通販に比べて、リアル販売はデータ分析から見えない
ことが多いからです。「購買行動のデータ把握」と「提供価値」の2点から、
リアル販売とネット通販を比べると分かります。
「購買行動のデータ把握」について
リアル販売は、ネット通販と比べて、お客様の購買活動のデータが一部分しか
取れません。
ネット通販の場合、自社ECサイト内での購買行動がデータで見えます。
どのページを見たのか、どのページにどのくらいの時間留まったのか、
どのページで離脱したのか、カートを見れば、どの商品を購入検討中なのか
分かります。購入履歴も確実にわかります。
一方リアル販売では、購入履歴はわかりますが、購買行動が見えません。
店舗内にカメラを設置している企業もありますが、お客様を個別に認識して
いる訳ではありません。多くのお客様の回遊を分析して、店舗レイアウトに
活用しています。
店舗の入口にカメラを設置して、来店数、性別、過去に来たことがある人か
新規なのかは判断している企業はありますが、お客様を個別に認識していません。
今後「お客様を顔認識で個別に認識する」ことも技術的には可能ですが、
ここ数年は広がる気配がありません。
ビーコンを活用してお客様を個別認識してる企業がまれにあるくらいです。
「提供価値」について
ネット通販は、自分達が何を届けているのか、提供している価値が安定しています。
ネットのページに表示されている情報、それ事態が提供している価値、そのもの
だからです。スマホ・パソコンが画面上に、24時間働く営業ロボットがいて
(実際にはいませんが…)安定した価値を届けています。
一方リアル販売は、店舗のスタッフ・社員の活動内容によって、提供する価値が
変わってしまいます。同じチェーン店でも、働いている人によって、高い価値を
提供しているお店もあれば、その逆もあります。同じお店でもその日働いている
メンバーが違えば、提供している価値も変わってしまいます。
同じ「いらっしゃいませ」という言葉を言っていても、それを言った人によって、
お客様が受け取る価値が違います。目と目があった時に感じる安心感のレベルも
スタッフによって変わってしまいます。ヒアリング場面、商品紹介場面も同じです。
リアル販売の提供価値の一番の特徴は、提供している価値が良い場合もあれば、
今一歩の場合もあります。不安定なのです。
今後、高性能カメラで不安定な価値を逐一把握することは不可能ではありませんが、
高性能カメラで接客を撮影・録音されたらお客様側にもまだ抵抗があるでしょう。
リアル販売では、提供している価値が不安定的な中で、購入履歴や顧客アンケート
データを収集しています。
「不安定的な提供価値」と「結果データ」を分析して因果関係を探ることになるので、
その因果関係からの結論の信頼性がどうしても低くなります。
データ分析から導き出された対策が的を射ていない場合が多くなります。
ネット通販であれば、「安定した提供価値」と「結果データ」の因果関係を探ることに
なるので、データ分析の信頼性が高いのとは対照的です。
どうしてもデータ分析に信頼性が薄いリアル販売はLTV推進が弱くなります
リアル販売でLTV最大化が現場で進めるために…
データ分析を基点に置きすぎるリアル販売のLTV最大化の取組は、
頓挫することが多いです。データを見てもよくわからないことが多いからです。
リアル販売では、データ分析で超えられない範囲が広いことをあらかじめ
認識していくことが大切です。
ネット通販・デジタルマーケティングでLTV最大化を進めて成果を上げた人が
リアル販売の分野で苦戦するケースは、この認識が薄く、戸惑っている内に
時が流れてしまう場合がよくあります。
リアル販売のLTV最大化は、データ分析はそこそこに(もちろん、やりますが)、
リアル販売のLTV最大化を進める中で実現するであろう、顧客接点で喜んでいる
お客様、スタッフを想像(≒妄想)しながら、戦略を練り、クレド・店頭活動マニュアルを
作る。
そして、リアル販売の現場で働いている一人ひとりがLTV最大化の取り組みを理解し、
納得してもらうために、丁寧な導入教育を行い、PDCAを廻しながら、実践した結果を
分析し、生涯ファンが増える状況を創っていくことが、リアル販売のLTV最大化です。
リアル販売のLTV最大化、具体的な活動は…
LTVは、アルファベット3文字で、新しいマーケティングを想像させるので、その最大化を
進める活動として、「ホームページ・ECサイト」「SNS(X・Facebook・Instagram・LINE)」
「You Tube」「マーケティング・オートメーション(MA)」「メールマガジン」「SEO」「Google MAPマーケティング(MEO)」「オンラインイベント」など、
デジタルマーケティングが頭に浮かぶのが自然だと思います。ネット通販のLTV最大化の活動の中心は、デジタルマーケティング(デジマ)です。
一方でリアル販売の活動の中心は、何なのでしょうか。
今後デジタルマーケティングの重要性が増していくことは、間違いありません。
特に「SNS」「メールマガジン」「Google MAPマーケティング(MEO)」は大切ですが、
中心とは言えません。
「SNSが盛り上がっていない」「メールマガジンをやっていない」「MEO対策をしていない」ことを
理由に、生涯に渡って購入し続けないと判断するお客様はいないからです。
もちろんデジタルマーケティングが前に進んでいるに越したことはありません。進んでいれば
集客に繋がりますし、来店後の繋がりに貢献してくれるからです。
ただ、あくまでお客様にとって、プラスアルファの要素であることに変わりはありません。
リアル販売において、LTV最大化の活動の中心は、デジタルマーケティングと対比させて表現すると、リアルマーケティングです。「接客」「店舗・売場」「リアルイベント」です。
リアル販売ではリアルマーケティング、当たり前すぎて拍子抜けしたかもしれませんが、
お客様の立場で考えると、当たり前に感じるでしょう。
素晴らしい「接客」を毎回受けていたら、ずっとそのスタッフに接客してもらいたいと思いませんか。
「店舗・売場」がとても心地良かったら、ずっと通い続けたいと思いませんか。
とても楽しい「リアルイベント」が定期的にあったら、毎日参加したいと思いませんか。
逆に「接客」が今一歩だったら、「生涯に渡って」という以前の問題で、もう一度行かないですよね。
「店舗・売場」が心地よくなかったら、通い続けることはありません。
「リアルイベント」があっても魅力的でなければ、参加しませんよね。
リアル販売においてLTV最大化を進めるには、「LTV視点の接客」「LTV視点の店舗・売場」
「LTV視点のリアルイベント」が中心になります。
リアル販売においてデジタルマーケティングは今後も中心ではなく、重要な脇役ですね。