前回のコラムでは、コロナ禍で「そもそも接客は必要か?」について、お話しました。「人を幸せにする接客」は、時代を超えて必要であり続ける、「ずっと残る接客」と結論付けました。
今回は、もう一歩話を進めたいと思います。
そもそも人の幸せとは、何かという点です。ここを紐解いていくと、「ずっと残る接客=人を幸せにする接客」の具体的な姿が見えてくるからです。
「幸せ」についての議論の変化
「幸せ」についての議論の変化について、予防医学研究者の石川善樹さんによると第1世代、第2世代、第3世代に分かれるそうです。
第1世代 幸せを定義づける
紀元前のギリシャの時代から今まで、幸せとは何かという問いに、さまざまな哲学者・宗教家が思いを巡らせてきました。
ソクラテスは…
「幸福とは報酬や賞賛から得るものではなく、個人が自分自身に与える内部的な成功から得られるものである」
ニーチェは…
「人は抵抗することで主体性を取り戻すことができる。
その自我の意識が幸福につながる」
バートランド・ラッセルは…
「幸せは本能的な愛の感情に身を任せることで見つかる」
…など、さまざまな哲学者・宗教家が幸せの定義を示してくれました。
科学的ではない(ここでは科学的を「数値測定が論拠になっているかどうか」という意味で使っています)のですが、人生がスムーズに進まなかった時に、これらの言葉に救われた人も多いのではないでしょうか。
もちろん、私もその一人です。
第2世代 幸せな人を分析する
2002年に発表された「VERY HAPPY PEOPLE」という心理学者による研究論文があります。
これまで哲学者・宗教家が行ってきた幸せの定義からのアプローチではなく、自分が幸せだと思っている“人”を分析して、幸せの共通因子を見つけ出していく取組でした。
石川善樹さん曰く、VERY HAPPYな人たちの特徴は「収入は高いのか、学歴はどうかではなく、良い友達がいる点」でした。
第3世代 幸せな場面を分析する
最近は、幸せな人と不幸な人がいる前提に立つのではなく、人はどんな“場面”が
幸せなのかに着目したアプロ―チが行われています。
「幸福学(ハーバード・ビジネス・レビュー:ダイヤモンド社:2018年11月)」から2つの研究結果を抜粋して、「人を幸せにする接客」について考えてみようと思います。
研究結果① 幅広い感情の経験 =幸せ
ハーバード大学の研究者ジョルディ・クォードバックによる「感情多様性と
感情エコシステム」という最新の研究では、「ポジティブなものも、ネガティブなものも含めて、幅広い感情を経験することが、心身両面の満足感(幸せ)に繋がる」ことが明らかになっています。(SIS齋藤が一部編集)
日本人的に表現すると、「喜怒哀楽といった感情の起伏を伴う経験が、心身両面の満足感(幸せ)である」と捉えられます。
接客では、怒哀といった感情が起こるといけないので(笑)、さまざまな喜楽を伴った感情の起伏を、お客様にどのくらい届けることができるのかが、「人を幸せにする接客」を考える上で、大事な視点になります。
研究結果② 幸せはインパクトよりも頻度が大事
心理学者のエド・ディナーの研究成果によると、基本的に「ポジティブな経験の頻度」は、「ポジティブな感情の強さ」よりも、幸福度の予測材料として、はるかに優れている。
どうしたら、幸せになれるのか考えた場合、強烈なイベントを思い浮かべるが、毎日ささやかな良いことが10数回起こる人は、本当に驚くほど素晴らしいことが
1回だけ起こる人よりも幸せである可能性が高い。
幸福は、無数の小さな出来事に総和と言える。(SIS齋藤が一部編集)
よく接客の研修などで、「小さいな気づかいを大切にしましょう」というお話がありますが、それが証明されましたね。
以上二つの研究結果を合わせると、「人を幸せにする接客」は、
『さまざまな喜楽を伴った感情の起伏が、小さくても、数多くお客様に生まれる接客』
と考えられますね。
当たり前と言えば、当たり前ですよね(笑)。
以前から言われてきたことですが、それが研究でも明らかになったことが確認できたことは、意味があったと思います。