広告の効果低下と消費者認知の変化
NewsPicksの番組「”潜在関心” Yahoo! JAPANデジマ最前線」で紹介された調査結果によれば、
「10年前と比べ、キャンペーン広告に同じ費用をかけても、消費者の認知が大幅に減少している(電通調査)」ということです。
この番組内で示されたグラフで、同じ広告費でも、10年前と比べて2/3~半分程度の認知しか
得られていないようです。
この10年間、ネット広告が急速に拡大し、コミュニケーションの効率が向上したと考えていましたが、
費用対効果の観点からは、それほど楽観的ではないことが浮かび上がりました。
私がこの業界に入った25年前から、広告の効果が低下していると言われていましたが、
この10年間でも状況はさらに悪化しているようです。
今回の調査は「キャンペーン認知」に焦点を当てていますが、
「ブランド認知」でも同じかもしれません。
費用対効果面から、ブランド認知を広げて新規を取り続けるのは難しいと考えると、
ブランド体験を強化して、ファンづくりを進めることが、より大事になっていきますね。
ブランド体験の強化とファンづくり
今回は、そんな「ブランド体験の強化」のヒントになる内容をお届けします。
花王ビューティブランズカウンセリングの接客コンテスト(美容部員約5,500名)の頂点、
最優秀賞を受賞したKanebo LUNASOL(ルナソル)の工藤さんにインタビューした記事が、
販促会議2023年8月号に掲載されています。
その要約をご紹介し、そこから考察します。
LUNASOL(ルナソル)は、人気のアイシャドウをはじめ、メイクアイテムのブランドで、
ベーシックなスタイルに、遊びココロやトレンド感を加えたメイクを提案しているブランド。
人気があるのは、4つのカラーが入ったアイシャドウパレットで、
色の使い方、組み合わせは決まっていないため、お客様に合った使い方でさまざまなメイクを表現することができる。
そんなブランドの接客の中で、工藤さんは、最初にお客様のなりたいイメージをお聞きして、
販促会議2023年8月号「販売/接客のキーパーソン」の記事要約
どんな雰囲気に仕上げたいのか、お客様と一緒に考えながら、コミュニケーションを取っている。
遊び心を体験してもらいたい思いから、フォーマットに沿った提案ではなく、お客様それぞれに
合わせた自由な形で接客している。
メイクアップについて、不安や緊張感を持って、来店される方がいる。
その際、必ず不安なポイント、普段使わないアイテムを聞くようにしている。
お客様の不安や悩みに寄り添うことで、自然とメイク楽しくなる提案に繋がると思っている。
提案は、お客様のパーソナルにあったアイテムの使用方法などをお伝えするようにして、
店頭での体験創出を心がけている。
工藤さんの活動について、私が注目させていただいたのは、
「お客様と一緒に(共に)考える」という部分でした。
“一緒に(共に)考える”というアプローチは、プライベートではよくあることです。
例えば、家族や友人が悩みごとを相談し、一緒に解決策を考えたり、
旅行の計画を立てる場面があります。
しかし、エンドユーザー向けのビジネス(B2C)では、売り手と買い手が一緒に考えることは珍しいことです。
例えば、「ネット通販」や「TV通販」では、売り手から情報提供がされ、
買い手は自身の購入判断を下すだけで、一緒に考える余地はありません。
同様に、コンビニやスーパーマーケットのような「セルフサービス型のリアル店舗」でも、
買い手が商品を自分で選ぶことが一般的です。
「接客型のリアル店舗」の価値
エンドユーザー向けのビジネス(B2C)において、売り手と買い手が一緒に考える場面があるのは、
「接客型のリアル店舗」だけです。
今回の事例のような化粧品店から自動車、バイク、アパレル、釣り具、ジュエリー、美容室、
エステサロン、旅館、スポーツジムなどの業界の店舗です。
理論的には、「ネット通販」でもZoomなどを活用して接客できる企業は存在しますが、
皆さんも経験があるかと思いますが、Zoomは一方向からの情報発信やヒアリングには効果的ですが、
実際に一緒に考える(ディスカッションする)には限界がありますよね。
「接客型のリアル店舗」が持つ、お客様と一緒に考える独自の価値を大切にしましょう。
私のコンサルティング経験を振り返ってみると、ファンを増やせなかったスタッフさんは、
お客様と一緒に考える姿勢をあまり意識していなかったようです。
例えば、お客様が2つの商品で迷っている場面です。
「お客様のお好みで選んでください」と言うスタッフさんは、お客様と一緒に考えているとは言えません。
最終的にはお客様の好みで商品を選ぶのは当然のことですが、
一緒に考えることをしていません。
お客様にとっては、少し寂しいかもしれません。
ファンを増やす観点からすると、もう一歩です。
レストランや居酒屋で「おすすめの料理は何ですか?」と尋ねた際に、
「すべての料理がおすすめですよ」「メニューに書いてありますよ」と答えるのは、
お客様と一緒に注文を考える姿勢ではありません。
これは悪い対応ではありませんが、ファンを増やすには足りないかもしれません。
このようなスタッフさんは、「お客様が知らないことを教える」や
「お客様の要望に応える」といった点はできている人が多いです。
お客様とスタッフの立場をわきまえた対応はできているのですが、
「一緒に」考えることに苦手意識を抱いているようです。
なぜこうなるのか、それは接客に時間がかかるからだと思います。
成長時代の接客では、多くのお客様を処理しなければならないため、
お客様と一緒に考えるアプローチはあまり良しとしない場合も多かったと思います。
しかし、現在はどうでしょうか。
成長時代のように新規客が増えるわけではないため、ファンを育てる必要があります。
そのためには、「お客様と共に考える(=共考)」というアプローチも重要な要素です。
これが「接客型のリアル店舗」ならではの価値です。
これまでのコラムでは、ファンを育てる接客活動のコンセプトとして、
「共感」「共振」「共有」の3つのキーワードを提案してきました。
4つ目のキーワードとして「共考」も取り入れていくことを考えています。